新リース会計基準適用による税務への影響と会計処理の変更点

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新リース会計基準適用による税務への影響と会計処理の変更点

企業の財務諸表において重要な位置を占めるリース取引。2021年に公表された新リース会計基準は、企業の会計処理と財務報告に大きな変革をもたらします。この基準適用により、多くの企業ではオフバランス処理していたオペレーティング・リースも含め、ほぼすべてのリース取引をオンバランス化することが求められるようになりました。

特に、リース資産の使用権とそれに対応する負債の両方を計上する新たなアプローチは、財務諸表の表示を大きく変え、財務指標にも影響を与えることになります。この変更は単なる会計処理の技術的な変更にとどまらず、企業の税務申告、税効果会計、さらには事業戦略にまで波及する可能性があります。

本記事では、新リース会計基準の概要と変更点を解説するとともに、会計処理の具体的な方法と税務への影響について詳しく説明します。また、実務上の課題と対応策についても触れ、企業が円滑に新基準へ移行するためのポイントを紹介します。

目次

新リース会計基準の概要と変更点

新リース会計基準導入の背景と目的

新リース会計基準は、国際会計基準審議会(IASB)が2016年に公表したIFRS第16号「リース」とのコンバージェンス(収斂)を目的として、企業会計基準委員会(ASBJ)により策定されました。この基準の最大の目的は、リース取引の経済的実態をより適切に財務諸表に反映させ、財務情報の透明性と比較可能性を高めることにあります。

従来のリース会計では、ファイナンス・リースのみがオンバランス処理され、オペレーティング・リースは注記情報としてのみ開示されていました。しかし、実質的には長期的な債務を生じさせるオペレーティング・リースが財務諸表に反映されないことで、企業の財政状態が適切に表示されないという課題がありました。

日本企業においては、2022年4月1日以後開始する事業年度から早期適用が可能となり、2025年4月1日以後開始する事業年度から強制適用される予定です。グローバル企業や上場企業を中心に、すでに適用準備を進めている企業も少なくありません。

従来の会計基準との主な相違点

新リース会計基準と従来の基準との最も大きな違いは、オペレーティング・リースとファイナンス・リースの区分が実質的に廃止されることです。新基準では、リース期間が12か月を超えるほぼすべてのリース取引について、借手は「使用権資産」と「リース負債」をバランスシートに計上することが求められます。

項目 従来の会計基準 新リース会計基準
オペレーティング・リース オフバランス(賃借料として費用計上) オンバランス(使用権資産とリース負債を計上)
ファイナンス・リース オンバランス(リース資産とリース債務を計上) オンバランス(使用権資産とリース負債を計上)
損益計算書 オペレーティング・リース:定額のリース料
ファイナンス・リース:減価償却費と支払利息
すべてのリース:減価償却費と支払利息

また、従来は不動産賃貸借契約の多くがオペレーティング・リースとして処理されていましたが、新基準ではこれらも使用権資産とリース負債の計上対象となります。ただし、短期リース(リース期間が12か月以内)と少額資産のリース(原資産が少額)については、簡便的な処理が認められています。

さらに、リース期間の決定方法や割引率の適用、リース負債の再測定など、細部にわたる会計処理方法も大きく変更されています。これにより、財務諸表の表示だけでなく、ROA(総資産利益率)やEBITDA(利払前・税引前・減価償却前利益)などの財務指標にも影響が及ぶことになります。

新リース会計基準適用による会計処理の変更

使用権資産とリース負債の計上方法

新リース会計基準では、リース取引開始日に、借手は使用権資産とリース負債を認識します。リース負債は、リース期間にわたって支払われるリース料の現在価値として測定されます。この際、借手は適切な割引率を用いて将来のリース料を割り引きます。

割引率としては、通常、リースの計算利子率が容易に算定できる場合はその利率を用い、そうでない場合は借手の追加借入利子率を用います。例えば、5年間の事務所賃貸借契約で月額賃料が100万円、借手の追加借入利子率が2%の場合、リース負債の当初認識額は約5,830万円となります。

一方、使用権資産は、リース負債の当初測定額に、リース開始日前に支払ったリース料、借手に発生した当初直接コスト、原資産の解体・除去費用の見積りなどを加算して測定します。リース・インセンティブ(賃料免除期間など)がある場合は、その金額を差し引きます。

リース期間の決定においては、解約不能期間に加えて、延長オプションを行使する可能性が合理的に確実である期間や、解約オプションを行使しない可能性が合理的に確実である期間も含めて判断します。これにより、実質的なリース期間がより適切に反映されることになります。

リース期間中の会計処理

リース期間中、使用権資産は減価償却され、リース負債には利息が発生します。減価償却は通常、リース期間または使用権資産の耐用年数のいずれか短い期間にわたって行われます。リース負債に係る利息費用は、リース負債の残高に対して一定の利率(通常は割引率と同じ)を適用して計算されます。

具体的な会計処理の例として、前述の5年間・月額100万円・割引率2%のケースでは、初年度の仕訳は以下のようになります:

  • リース開始時:(借)使用権資産 58,300,000 (貸)リース負債 58,300,000
  • 1か月目の支払時:(借)リース負債 902,333 / 支払利息 97,667 (貸)現金預金 1,000,000

この処理により、従来のオペレーティング・リースでは定額で計上されていたリース料が、減価償却費と支払利息に分解されることになります。特に支払利息は、リース期間の前半ほど多く計上されるため、リース期間の前半では費用計上額が多くなる傾向があります(フロントローディング効果)。

財務諸表上では、使用権資産は有形固定資産または無形固定資産に含めて表示し、リース負債は短期・長期の区分に応じて流動負債または固定負債として表示します。また、キャッシュ・フロー計算書では、リース負債の元本返済部分は財務活動、利息部分は営業活動または財務活動のキャッシュ・フローとして表示します。

短期リースと少額資産リースの特例

新リース会計基準では、実務上の負担軽減のため、以下の2つのケースについて認識の免除規定が設けられています:

  1. 短期リース:リース期間が12か月以内のリース
  2. 少額資産リース:原資産が少額であるリース

これらのリースについては、使用権資産とリース負債を認識せず、リース期間にわたって定額法または他の規則的な方法でリース料を費用として認識することができます。

「少額資産」の判断基準については明確な金額基準は示されていませんが、国際的な実務では概ね5,000米ドル(約50万円)程度を目安とする例が多く見られます。具体的には、パソコン、タブレット、小型の事務機器などが該当する可能性があります。

ただし、これらの免除規定を適用する場合でも、その旨と適用したリースに関する情報を注記で開示する必要があります。また、免除規定の適用は会計方針の選択として、リース種類ごとに一貫して適用する必要があります。

新リース会計基準が税務に与える影響

法人税法上の取り扱いと会計との差異

新リース会計基準の適用により、会計上の処理と税務上の取り扱いに乖離が生じる可能性があります。現行の法人税法では、リース取引は「ファイナンス・リース取引」と「オペレーティング・リース取引」に区分されており、税務上のファイナンス・リース取引の判定基準は以下の通りです:

  1. リース期間が耐用年数の75%以上であること
  2. リース料総額が取得価額の90%以上であること

これらの要件を満たすリース取引は税務上「ファイナンス・リース取引」として、資産計上と減価償却が求められます。一方、これらの要件を満たさないリース取引は「オペレーティング・リース取引」として、支払リース料を費用処理します。

新会計基準では、ほぼすべてのリース取引が資産・負債計上の対象となりますが、税務上は上記の判定基準に基づいて処理が分かれるため、会計と税務の間に一時差異が生じることになります。

特に、会計上は使用権資産として計上されるが税務上はオペレーティング・リース取引として取り扱われるケースでは、減価償却費と支払利息の会計上の費用と、税務上のリース料費用との間に差異が生じます。これにより、税務申告時に申告調整が必要となります。

税効果会計への影響

新リース会計基準の適用により、会計上と税務上の資産・負債の認識に差異が生じるため、税効果会計の適用が必要になります。主な一時差異としては以下のようなものが考えられます:

一時差異の種類 会計上の処理 税務上の処理 税効果
税務上オペレーティング・リースとされるリース 使用権資産・リース負債を計上
減価償却費と支払利息を認識
リース料を費用処理 将来減算一時差異または将来加算一時差異
(期間により変動)
当初直接コスト 使用権資産に含めて資産計上 発生時に費用処理の可能性 将来減算一時差異
リース・インセンティブ 使用権資産から控除 受取時に収益処理の可能性 将来加算一時差異

これらの一時差異に対して、繰延税金資産または繰延税金負債を認識することになります。例えば、会計上の使用権資産の帳簿価額が税務上の資産計上額(または0円)を上回る場合、その差額に対して繰延税金資産が計上されます。

また、リース期間中の各期における会計上の費用と税務上の費用の差異により、実効税率にも影響が及ぶ可能性があります。特にリース取引の規模が大きい企業では、税効果会計の影響を適切に把握し、財務計画に反映させることが重要です。

消費税等の間接税への影響

新リース会計基準の適用は、消費税等の間接税の取り扱いにも影響を与える可能性があります。消費税法上、リース取引は資産の譲渡または貸付けとして取り扱われ、リース料の支払時に課税仕入れとして処理されます。

会計上、使用権資産とリース負債を計上する処理に変更されても、消費税の取り扱いは基本的に変わらず、リース料の実際の支払時に課税仕入れとして処理されます。ただし、リース取引に関連して発生する当初直接コストや原状回復費用などの取り扱いについては、個別に検討が必要です。

また、リース取引に関する請求書や契約書の記載内容が変更される可能性もあるため、適格請求書等保存方式(インボイス制度)への対応も含めて、経理処理の見直しが必要になるケースもあります。

特に、海外拠点とのリース取引や国際的なリース契約の場合は、消費税の課税関係がより複雑になる可能性があるため、税務専門家への相談を含めた慎重な対応が求められます。

新リース会計基準適用における実務上の課題と対応策

システム対応と社内体制の整備

新リース会計基準の適用に向けて、企業は以下のようなシステム対応と社内体制の整備が必要になります:

  • リース契約の網羅的な把握と管理体制の構築
  • リース資産とリース負債の計算・管理システムの導入または改修
  • 会計システムとの連携機能の整備
  • リース期間や割引率の決定プロセスの確立
  • 契約変更時の再測定プロセスの整備

特に、これまでオフバランスとしていたオペレーティング・リース取引も含めて管理する必要があるため、リース契約管理の仕組みを大幅に見直す必要があるケースが多いでしょう。

また、社内規程の整備や担当者の教育も重要です。新基準では、リース期間の決定や割引率の設定など、専門的な判断を要する場面が増えるため、会計部門だけでなく、調達部門や法務部門も含めた横断的な対応体制の構築が求められます。

株式会社プロシップ(〒102-0072 東京都千代田区飯田橋三丁目8番5号 住友不動産飯田橋駅前ビル 9F、https://www.proship.co.jp/)などが提供する会計システムやリース管理ソリューションを活用することで、新リース会計基準への対応を効率的に進めることができます。

開示要件と監査対応

新リース会計基準では、リース取引に関する開示要件が大幅に拡充されます。主な開示項目としては以下のようなものがあります:

開示区分 主な開示項目
定量的情報 ・使用権資産の種類別帳簿価額
・リース負債の満期分析
・リースに関連する費用(減価償却費、支払利息等)
・短期リースや少額資産リースに関する費用
・リースによるキャッシュ・アウトフロー総額
定性的情報 ・リース活動の性質
・将来のキャッシュ・アウトフローに影響する可能性のある変動リース料
・延長オプションや解約オプションの存在と利用状況
・残価保証
・まだ開始していないがコミットメントのあるリース

これらの開示要件に対応するためには、リース契約の詳細情報を体系的に収集・管理する仕組みが不可欠です。また、監査人との早期段階からの協議も重要であり、会計方針の選択や重要な判断(リース期間の決定、割引率の設定など)については、監査人の同意を得ておくことが望ましいでしょう。

特に初年度適用時には、移行方法の選択や実務上の便法の適用など、監査上の重要論点となる事項が多いため、十分な準備と監査人との密接なコミュニケーションが求められます。

移行時の実務上の負担軽減措置

新リース会計基準への移行にあたっては、実務上の負担を軽減するための経過措置や実務上の便法が用意されています:

  1. 遡及適用の免除:完全遡及適用ではなく、修正遡及アプローチを選択可能
  2. リースの定義に関する経過措置:既存契約についてリースの再判定を行わないことが可能
  3. 短期リースと少額資産リースの免除規定の活用
  4. 単一の割引率適用:特性が合理的に類似したリースのポートフォリオに単一の割引率を適用可能
  5. 当初直接コストの除外:移行時の使用権資産の測定から当初直接コストを除外可能

これらの措置を適切に活用することで、移行時の実務負担を軽減できます。ただし、便法の適用は将来の財務諸表にも影響するため、長期的な影響も考慮した上で選択する必要があります。

また、税務調整の効率化のために、会計システムと税務申告システムの連携を強化したり、一時差異の発生と解消を自動計算する仕組みを導入したりすることも検討すべきでしょう。

まとめ

新リース会計基準の適用は、単なる会計処理の変更にとどまらず、企業の財務指標、税務申告、システム対応、内部統制など多岐にわたる影響をもたらします。特に、従来オフバランスとしていたオペレーティング・リースをオンバランス化する変更は、資産・負債の増加を通じて財務比率に大きな影響を与える可能性があります。

企業は、この変更に対応するために、早期の影響分析と準備が不可欠です。特に、リース契約の網羅的な把握、システム対応、会計方針の決定、税務への影響分析、開示要件への対応など、多面的な準備が求められます。

また、新基準への移行は一度限りの作業ではなく、継続的なリース契約管理と会計処理の仕組みを構築することが重要です。経過措置や実務上の便法を適切に活用しながら、効率的かつ効果的な移行を実現することが、企業の財務報告の質を高め、ステークホルダーからの信頼を維持することにつながるでしょう。

※記事内容は実際の内容と異なる場合があります。必ず事前にご確認をお願いします

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